濱田巧と三宅輝砂が帰ってくる——元王者2人の再出発を読む

遠回りした元王者と、揺れながら戻る“天才”の再出発
5月31日の「PANCRASE 362」で、濱田巧と三宅輝砂がそろって復帰する。
濱田はジョセフ・カマチョと、三宅は遠藤来生と対戦。
どちらもただの復帰戦ではない。
濱田は王者から一転して“ゼロからの再出発”を迫られ、三宅は王座返上と一時引退表明を経てケージに戻ってくる。
今回の2試合は、実績ある選手の再登場というより、それぞれが自分の立場を立て直すための一戦として見るべきだ。
濱田巧——焦りが生んだ王座剥奪、そしてゼロからの再起
濱田巧の背景は、かなり複雑だ。
2025年11月、大塚智貴との5R判定勝ちで第10代フライ級王者となったが、そのわずか4カ月後、PANCRASEへの事前承認を得ないままBreakingDown参戦を進めていたとして王座を剥奪された。
大会公式も今回の一戦を「パンクラスでのゼロからの再出発」と位置づけている。
相手のカマチョは、2024年12月に元王者・猿飛流からRNCで勝利した実力者で、復帰相手としては軽くない。
キック出身、でも寝技が好き
ただ、濱田を単純に“騒動の人”としてだけ書くと、この選手の芯を見落とす。
もともと濱田はキックボクシング出身で、外から見れば打撃型の選手だが、本人はMMAにのめり込んだ理由として「寝技が楽しかった」と語っている。
しかも憧れとして挙げていたのは内藤のび太で、元キックボクサーのイメージとは少し違う、組みや寝技も含めてMMAを面白がるタイプだ。
そこが濱田の競技者としてのおもしろさでもある。
ベルトはゴールではなく、外へ出るための証明書だった
王座戦前の濱田は、自分がようやくベルトに届く場所まで来たことを強く意識していた。
キック時代にタイトルを獲れなかった悔しさを抱えたままMMAに転向し、「必ずタイトルマッチまで行く」と決めて進んできた経緯がある。
さらに王者になったあとには、ベルトを持ってRIZINでパンクラスの強さを証明したいという趣旨の発言もしていた。
濱田にとってベルトはゴールではなく、外へ出るための証明書だった。
だからこそ、知名度への焦りから判断を誤ったという今回の経緯は、皮肉でもある。
実際、濱田本人は王座剥奪後の説明で、団体の環境や待遇に不満は一切なかったと明言し、RIZIN参戦がかなわないなかで「知名度不足」への焦りがあったと謝罪している。
そこには反発よりも、上に行きたかったがゆえの焦燥がにじむ。
今回の復帰戦で問われるのは強さだけではない。
もう一度、競技の中で自分の価値を証明し直せるのか。
濱田の再起は、その一点に集約される。
三宅輝砂——自信と自己否定が同居する“天才”の帰還
一方の三宅輝砂は、濱田とは違う意味で人間味の強い選手だ。
キャリアの始まりからして独特で、兄との“格闘技ごっこ”やヒョードルへの憧れがMMAの原点にある。
本人も、最初からプロ志望だったわけではなく、練習を続けるなかで自然にアマを経てプロになったと振り返っている。
いわゆるエリート街道ではなく、MMAそのものへの興味から深く入っていったタイプだ。
“試合が好きじゃなかった”選手が戦い続ける理由
三宅という選手を深掘りすると、さらにおもしろい。
過去インタビューでは、そもそも「試合が好きじゃなかった」とまで話している。
それでも続けた理由は、自分の可能性を知りたいことと、練習してきた技術を証明したいからだった。
勝負の場が好きで前に出るタイプというより、練習と技術の先にある“答え合わせ”として試合に向かう選手だ。
その繊細さが、三宅の強さにも不安定さにもつながっている。
メンタルの変化が生んだ連勝、そして王座奪取
その三宅が大きく変わったのは、2023年以降だ。
本人は技術が急に変わったというより、メンタルに余裕が生まれ、練習通りの動きを試合で出せるようになったことが連勝の理由だと語っている。
2024年12月には平田直樹を72秒で沈めて王座奪取、2025年6月には中田大貴を1R TKOで下して初防衛に成功。
公式記録上も、王座奪取から初防衛まで鮮烈な内容が並んでいる。
ただ、三宅は王者になっても、いわゆる“王者然”とした言葉だけを吐く選手ではなかった。
中田との再戦前には「タイトルマッチというよりリベンジに燃えている」と話し、自分の中ではベルトより借りを返すことが前にあった。
RIZIN初参戦前にも、高木凌を挑発しながら、一方で「まだまだ自分はトップ選手とやり合うには実力が足りない」と自己分析していた。
自信と自己否定が同居している。
その危うさこそが三宅のリアルだ。
RIZIN敗戦、引退表明、そして王座返上
だからこそ、2025年9月のRIZIN.51で高木凌に判定負けを喫したあと、三宅が大きく揺れたのも分からなくはない。
PANCRASE公式の大会紹介では、この敗戦のショックと責任感から一時は引退を表明し、王座返上を決断したと説明されている。
実際、その後のPANCRASEでは三宅の返上に伴う王座決定戦が組まれており、今回の遠藤戦は“元王者の復帰戦”という位置づけになった。
2人に共通するもの、そして見届けたいこと
今回の復帰戦で濱田と三宅に共通するのは、どちらも一度流れを失っていることだ。
ただ、失い方は違う。
濱田は外へ出たい気持ちが先走り、肩書きを失った。
三宅は敗戦を重く受け止めすぎて、自らベルトを手放した。
濱田に必要なのは信用と順序を取り戻すこと。
三宅に必要なのは、結果以上に自分の競技との向き合い方を取り戻すことだろう。
5月31日のPANCRASE 362は、単に元王者2人が戻る日ではない。
濱田巧が“やり直し”をどう戦うのか。
三宅輝砂が、もう一度戦う理由をどこに置くのか。
その答えが見える日になる。
復帰戦の勝敗以上に、この2人がどんな顔でケージに入るのかを見たい。
大会情報
大会名:PANCRASE 362
日時:2026年5月31日
主催:パンクラス
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