イルホム・ノジモフとは何者か|グスタボ戦で問われる王者の証明

イルホム・ノジモフ、RIZINライト級王者。
2025年大晦日、ホベルト・サトシ・ソウザをわずか13秒でKOし、RIZINライト級王座を奪取したウズベキスタン出身のストライカーだ。
ただ、ノジモフは突然現れた一発屋ではない。
RIZIN参戦前からロシアのローカル大会、EFC、UAE Warriorsなどでキャリアを積み、勝利と敗北を重ねながら実力を磨いてきた選手である。
Sherdogでは現在のプロ戦績は13勝3敗。
勝利の内訳はKO/TKOが7、一本が3、判定が3と、フィニッシュ率の高さが目立つ。
所属はTiger Muay Thai、階級はライト級として掲載されている。
RIZIN.53では、そのノジモフが初防衛戦に臨む。
相手はルイス・グスタボ。
ライト級タイトルマッチとして、5分3R・71.0kg契約で組まれている。
ミルコに憧れた少年、複数競技を渡り歩いた格闘技ベース
ノジモフの格闘技人生の原点には、PRIDE時代のミルコ・クロコップがある。
RIZIN公式プロフィールでは、幼少期にミルコが足技でKOする姿に憧れたこと、親の勧めでボクシングを始め、兄の影響でITFテコンドーを習い始めたことが紹介されている。
さらに空道、レスリング、柔道、コンバットサンボなど、さまざまな格闘技を経験してきたという。
この経歴を見ると、ノジモフは単なるキック主体の打撃選手ではない。
長いリーチ、前蹴り、ヒザ、ハイキックといった立ち技の印象が強い一方で、キャリアの初期から組み技や寝技にも触れてきた。
実際、Sherdog上の勝利内訳にも一本勝ちが3つ記録されており、ギロチンチョークやチョークでの勝利もある。
だからこそ、ノジモフの強さは「蹴りが強い」だけでは説明しきれない。
打撃で距離を支配しながら、組まれても簡単には崩れず、必要なら自分から倒すこともできる。
RIZIN初期の試合でも、その総合力はすでに見えていた。
RIZIN参戦前、ロシアでの敗北から始まったキャリア
ノジモフは2015年4月、ロシアのWCSA Combat RingでプロMMAデビューを果たした。
結果は1Rリアネイキッドチョークによる一本負け。
キャリアの出発点は、華々しい勝利ではなく、いきなりの黒星だった。
しかし、その後はロシア周辺の大会で勝利を積み重ねていく。
2016年にはVyacheslav Dimovに1R TKO勝ち。
2017年にはAli Rayimjonovにも1R TKO勝利を収めている。
一方で、2017年12月にはMFPの大会でYuriy Virchakovにリアネイキッドチョークで一本負けしており、初期キャリアではグラウンドで仕留められる敗戦も経験していた。
この時期のノジモフは、いまのようなRIZIN王者としての完成形ではない。
フィジカルと打撃の爆発力はありながら、まだ荒さもあり、試合を重ねながらMMAに適応していく段階だったと言える。
それでも、2018年以降は流れが変わる。
Kayratbek Imarovにギロチンチョークで勝利し、Dmitry Shulginにもチョークで一本勝ち。
さらにVadim SavinにはTKO勝利、Sevak ArakelyanとViktor Mitkovには判定勝利を収め、勝ち方の幅を広げていった。
UAE Warriorsで見せた上昇と挫折
RIZIN参戦前のキャリアで重要なのが、UAE Warriorsでの2試合だ。
2022年10月、ノジモフはUAE Warriors 34でKhazar Rustamovと対戦し、1Rギロチンチョークで一本勝ち。
ここで大きかったのは、海外の中堅プロモーションでしっかり結果を出したことだ。
RIZINに来る前から、ノジモフはロシア周辺だけで勝っていた選手ではなく、UAE Warriorsという国際色のある舞台でも勝利していた。
しかし、次戦では強烈な挫折を味わう。
2023年3月、UAE Warriors 39でRustem Kudaibergenovと対戦し、開始8秒でパンチによるKO負け。
この敗戦は、ノジモフという選手を語るうえで重要だ。
現在の彼はサトシを13秒で倒した王者だが、その約2年半前には、自分が開始8秒で倒される側にいた。
RIZIN参戦前のノジモフは、圧倒的な連勝街道だけを歩んできたわけではない。
勝ちを重ね、国際舞台で評価を上げながらも、被弾すれば一瞬で終わる怖さを身をもって知っている選手だった。
RIZIN初参戦、アゼルバイジャン大会で見せた距離支配
ノジモフがRIZINに初参戦したのは、2023年11月の「RIZIN LANDMARK 7 in Azerbaijan」。
相手はホアレス・ディアだった。
試合は66.0kg契約のRIZIN MMAルールで行われ、ノジモフが3R判定3-0で勝利している。
この試合で見えたのは、ノジモフの距離管理能力だった。
ノジモフがロー、前蹴り、バックスピンキックを使い、ジャブ、ワンツー、ヒザで攻勢を維持した。
2Rにはディアに組まれて投げられる場面もあったが、ノジモフは立ち上がり、逆に投げ返してトップを取る展開も作った。
つまり、RIZINデビュー戦からノジモフは「長い打撃だけの選手」ではなかった。
前蹴りとジャブで距離を作り、相手が入ってきたらヒザや投げで対応する。
打撃の選手でありながら、組みの局面でも想像以上の対応力を見せていた。
山本空良戦で日本デビュー、フィニッシャーとしての存在感
2024年4月、ノジモフは日本でのRIZIN初戦として山本空良と対戦した。
結果は2R3分39秒、グラウンドパンチによるTKO勝ち。
この試合でも、ノジモフの強さはスタンドだけではなかった。
山本はタックルや下からの関節でチャンスを作ろうとしたが、ノジモフは組みをこらえ、上を取り、顔面への三日月蹴りやパウンドで削った。
2Rには山本の三角絞めを振り払い、スタンドで右ストレートを当てて倒し、最後はパウンドで試合を終わらせている。
試合後、ノジモフは「次の試合の準備はできてます、66kgのチャンピオンを獲ることを約束します。」とコメントしていた。
この時点でノジモフは、RIZINフェザー級の危険な外国人選手として存在感を高めていた。
だが、まだライト級王者になる未来を明確に想像していたファンは多くなかったはずだ。
新居すぐる戦、前蹴り一発で評価を変えた
2025年6月、ノジモフは「RIZIN LANDMARK 11 in SAPPORO」で新居すぐると対戦した。
ノジモフが新居を下している。
RIZIN公式プロフィールでは、この試合を「前蹴りを顎に突き刺す衝撃的な1R KO」と説明している。
この勝利で、ノジモフのイメージはさらに明確になった。
ただ距離が長いだけではなく、相手が一歩入ってくる瞬間に、前蹴りやヒザを正確に合わせることができる。
相手からすれば、パンチを警戒して踏み込んでも、蹴りで止められる。
組みに行っても、ヒザが待っている。
ノジモフの打撃は、派手なKOだけではなく、相手の入り口を潰す機能を持っていた。
この性質が、後のサトシ戦で決定的な意味を持つことになる。
サトシ戦、13秒KOでRIZINライト級王者へ
2025年大晦日、ノジモフはホベルト・サトシ・ソウザの持つRIZINライト級王座に挑戦した。
この試合はサトシがダブルレッグに入ったところへノジモフがヒザを合わせ、13秒で新王者になった。
サトシはRIZINライト級の長期政権を築いてきた王者であり、このKOは海外でも大きなアップセットとして扱われた。
この一撃は、ノジモフのキャリアを一変させた。
フェザー級でRIZINに入ってきた危険なストライカーが、ライト級の絶対王者を倒し、一気に王座の中心に立ったのである。
ただし、この勝利があまりにも早すぎたことも事実だ。
13秒KOは衝撃的だが、裏を返せば、王者として3Rをどう戦うのか、組みの強い相手に長い時間どう対応するのか、追われる立場でどう試合を作るのかは、まだ十分には見えていない。
だからこそ、RIZIN.53の初防衛戦が重要になる。
RIZIN.53、相手はルイス・グスタボ
RIZIN.53でノジモフが迎える相手は、ルイス・グスタボ。
RIZIN公式の対戦カードでは、第11試合のライト級タイトルマッチとして組まれている。
ルールはRIZIN MMAルール、5分3R、71.0kg契約だ。
グスタボはRIZINライト級で長く存在感を示してきた強打者であり、RIZIN公式プロフィールでも「RIZINライト級を牽引してきたグスタボとのストライカー対決」と表現している。
この試合のテーマは明確だ。
ノジモフが「サトシを倒した男」で終わるのか。
それとも「RIZINライト級の新しい王者」として認められるのか。
サトシ戦は、タックルにヒザを合わせた完璧なカウンターだった。
一方、グスタボ戦は違う展開になる可能性が高い。
グスタボは打撃で前に出るタイプで、ノジモフにとっては距離を保ちたい相手になる。
ノジモフが前蹴り、カーフ、ジャブ、ストレートでグスタボの突進を止められるか。
あるいはグスタボが圧力でノジモフを下がらせ、乱戦に巻き込むのか。
この攻防こそが、RIZIN.53のライト級タイトルマッチ最大の見どころになる。
ノジモフのキャリアは、RIZIN.53で次の章に入る
イルホム・ノジモフのキャリアを振り返ると、決して一直線の成功物語ではない。
2015年のプロデビュー戦では一本負け。
2017年にも一本負けを喫し、2023年のUAE Warriorsでは開始8秒でKO負けを経験した。
だが、そのたびにキャリアを立て直し、ロシア、UAE、RIZINという舞台を渡り歩いてきた。
ノジモフは敗北を挟みながら、最終的には13勝3敗まで勝ち星を積み上げている。
RIZINでは、ホアレス・ディアに判定勝ち、山本空良にTKO勝ち、新居すぐるにKO勝ち、そしてサトシを13秒KO。
そして次は、ルイス・グスタボとの初防衛戦。
この試合に勝てば、ノジモフは「大晦日に奇跡を起こした挑戦者」ではなく、「RIZINライト級を背負う王者」として一段階上の評価を得ることになる。
サトシ戦の13秒は、ノジモフの名前を一気に広めた。
しかし、王者としての物語は、むしろここから始まる。
RIZIN.53のグスタボ戦は、イルホム・ノジモフが「本物の王者」であることを証明するための初めての防衛戦になる。
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