脳動脈瘤を乗り越えパンクラス王者へ ラファエル・バルボーザが取り戻した格闘家としての人生

2026年3月14日、横浜武道館で開催された「PANCRASE 361」。
ライト級キング・オブ・パンクラス・チャンピオンシップで、ラファエル・バルボーザは王者・雑賀“ヤン坊”達也と対戦した。
雑賀の持つ強烈な打撃に対し、バルボーザは長いリーチを生かして距離を管理。
2ラウンドに左肘を当てて雑賀の右まぶたをカット。
試合再開後も出血が続き、4分41秒にレフェリーストップによるTKO勝利を収めた。
パンクラス参戦からわずか3試合。
バルボーザは第10代ライト級キング・オブ・パンクラシストとなった。
しかし、このベルトを手にするまでの道のりは、単なる連勝記録では語れない。
約4年前、バルボーザは格闘家としてのキャリアだけでなく、自らの命と向き合う状況に置かれていた。
キャリア最大の王座戦を止めた2つの脳動脈瘤
2022年3月、バルボーザはLFAフェザー級の空位王座決定戦でジョナス・ビリャリーニョと対戦する予定だった。
当時のバルボーザにとって、世界へ近づくための大きな機会だった。
しかし、試合前の検査で、脳に2つの動脈瘤が見つかり、王座戦からの欠場を余儀なくされた。
頭部へ継続的に衝撃を受けるMMA選手にとって、脳の血管に関する異常は競技生命に直結する問題である。
今後再び試合ができるのかも分からず、競技を続けるべきか、本人が真剣に考えざるを得ない状況となった。
本人は当時を振り返り、脳の手術を受けた後に再び打撃を受けることを考えれば、競技を諦めるのが一般的な選択だったと語っている。
それでも、バルボーザは復帰する道を選んだ。
約10時間に及んだ手術
バルボーザは数週間後、ブラジルのサン・ジョゼ・ド・リオ・プレトで手術を受けた。
本人によれば、約10時間に及んだ手術の途中で意識を取り戻し、医師の指示で覚醒状態を保ったままICUへ移されたという。
それでも処置は成功し、医師からは将来的に競技へ復帰できる可能性を伝えられた。
手術から2日後には病室内を歩き、3日後には退院できたという。
もちろん、手術が成功したからといって、すぐに格闘技へ戻れるわけではない。
日常生活を取り戻すことと、相手のパンチやキックを受ける競技へ復帰することの間には、大きな隔たりがある。
その後、医師から競技復帰の許可を得て、再びケージへ立つための準備を進めた。
復帰戦で待っていた敗北
欠場した王座戦から約1年後の2023年3月、バルボーザはLFAでマイロン・サントスと対戦した。
急きょ決まった試合を受け、アメリカへ渡って競技復帰を果たしたものの、結果は判定負け。
病気を乗り越えた復帰戦を勝利で飾ることはできなかった。
しかし、バルボーザにとって重要だったのは、再び戦えることを証明した点にあった。
この試合後、減量による身体への負担を軽くするため、フェザー級からライト級へ転向。
2023年からはロサンゼルスを拠点とし、California Mixed Martial Artsでトレーニングを続けた。
空手で培った距離感と長いリーチ、柔術を土台とした寝技に加え、アメリカではレスリングの強化にも取り組んだ。
日本で始まった再出発
バルボーザが新たな活躍の場として選んだのが、日本のパンクラスだった。
初参戦は2025年3月。
当時ライト級2位の粕谷優介と対戦すると、2ラウンド4分2秒、ダースチョークでテクニカル一本勝ちを収めた。
約2年の実戦ブランクを経験し、海外から参戦した選手が、いきなりパンクラス・ライト級2位の実力者をフィニッシュした。
この勝利で、バルボーザは一気にライト級王座戦線へ浮上した。
同年7月には、無敗だった鈴木悠斗と対戦。
1ラウンド4分31秒、スピニングチョークで一本を奪い、パンクラス参戦後2試合連続のフィニッシュ勝利を記録した。
粕谷にはダースチョーク、鈴木にはスピニングチョーク。
空手を背景に持つストライカーでありながら、パンクラスでは高いグラップリング能力を続けて見せた。
王者・雑賀“ヤン坊”達也を撃破
迎えた3戦目で、バルボーザはライト級王者の雑賀“ヤン坊”達也へ挑戦した。
雑賀は高いKO率を誇り、一発で試合を終わらせる打撃を持つ王者。
一方のバルボーザも、空手を基礎とした距離の管理と、打撃から寝技まで幅広いフィニッシュ手段を持っている。
試合ではバルボーザが雑賀の射程を外しながら攻撃を当て、2ラウンド終盤にストップ勝利。
粕谷、鈴木、雑賀という日本のライト級トップ選手を3試合連続で破り、パンクラスの頂点へ到達した。
現在のプロ戦績は17勝5敗。
17勝のうち6勝がKO・TKO、6勝が一本であり、立っても寝ても試合を終わらせられることが数字にも表れている。
ベルト以上に価値があるもの
バルボーザにとって、パンクラスのベルトは単なる肩書ではない。
本人は王座獲得後、ベルトによって得られるものの中で最も幸せなのは、ケージの中で生きていると実感できることだと語った。
脳動脈瘤が見つかった時点では、格闘家として試合へ戻ることさえ不透明だった。
それから手術を受け、敗戦を経験し、階級と練習環境を変え、日本へ渡って王者となった。
だからこそ、バルボーザにとって王座獲得は、他の選手を上回った証明であると同時に、自らの人生を取り戻した証しでもある。
次に目指すのはUFCかRIZINか
パンクラス王者となったバルボーザは、次の目標として「Dana White’s Contender Series」への出場を挙げている。
コンテンダーシリーズで評価されれば、UFCとの契約につながる可能性がある。
28歳という年齢を考えても、世界最高峰を目指すために残された時間は十分にある。
一方、UFCへの道がすぐに開かなければ、日本で戦い続け、RIZINの王座を目指したいという意向も示している。
バルボーザによれば、パンクラスとの契約は残り3試合あるものの、コンテンダーシリーズやRIZINへの出場が認められる内容になっているという。
海外団体と契約できなかった場合には、パンクラスへ戻って王座を防衛する考えも語った。
パンクラスのベルトは通過点となるのか
パンクラスのライト級では、粕谷優介と神谷大智による次期挑戦者決定戦が予定されている。
バルボーザがパンクラスに残れば、その勝者との防衛戦が次の大きな候補になる。
粕谷が勝てば、2025年にバルボーザが一本勝ちした試合の再戦となり、神谷が勝てば、勢いのある新世代との初対決になる。
一方、バルボーザがコンテンダーシリーズやRIZINへ進めば、パンクラス王者が世界へ挑む新たな例となる。
日本人ランカーにとっては王座を奪うために越えなければならない存在であり、海外の選手にとっては日本を経由して世界へ進む道を示す存在でもある。
一度は競技を続けることすら危ぶまれたラファエル・バルボーザ。
現在、その腰には歴史あるパンクラスのベルトが巻かれている。
脳動脈瘤の発見によって止まりかけた格闘家としての時間は、日本のケージで再び動き始めた。
パンクラス王座は物語の結末ではない。
UFC、RIZIN、あるいは日本での防衛戦。
バルボーザが次にどの道を選ぶとしても、ケージへ戻り、王者となった事実そのものが、すでに大きな勝利なのである。
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参考資料
- PANCRASE 選手データ:Rafael Barbosa- MMA Fighting:Rafael Barbosa came back from brain aneurysm to win Pancrase title

