経験の粕谷か、勢いの神谷か ラファエル・バルボーザへの挑戦者を決める一戦

2026年6月28日、東京・ニューピアホールで開催される「PANCRASE 363」で、ライト級1位の粕谷優介と2位の神谷大智が対戦する。
試合は5分3ラウンドのライト級次期挑戦者決定戦。
勝者は、ラファエル・バルボーザが保持するライト級王座への次期挑戦権を獲得する。
36歳の粕谷と27歳の神谷。
両者の年齢差は9歳ある。
UFCを経験し、長年にわたって国内ライト級の上位で戦ってきた粕谷が再び王座へ向かうのか。
それとも、柔道を土台に急成長を続ける神谷が世代交代を起こすのか。
単なるランキング上位同士の対戦ではない。
バルボーザへの再挑戦を目指すベテランと、初めての王座挑戦を狙う新鋭が、それぞれのキャリアを懸けてぶつかる一戦である。
UFCを経験した寝技のスペシャリスト
粕谷は1989年11月16日生まれ、神奈川県出身。
総合格闘技道場CROWNに所属し、16勝10敗2分の戦績を持つ。
最大の武器は、相手の背後を奪って仕留めるグラップリングだ。
組みの攻防からバックへ回り、リアネイキッドチョークを狙う形を得意としている。
相手が立ち上がろうとする動きや、タックルを切ろうとした瞬間に背中へ回る能力が高く、一度有利な位置を取れば試合を終わらせる力を持つ。
2015年にはUFCへ参戦。
初戦でニック・ハイン、続く2016年11月には後にUFCフェザー級王者となるアレクサンダー・ヴォルカノフスキーと対戦した。
UFCでは勝利を挙げられなかったものの、世界最高峰の環境を経験したことは、その後のキャリアにおける大きな財産となった。
UFC離脱後の2017年からパンクラスへ参戦。
ライト級へ転向してからは、平信一、岡野裕城、葛西和希、ホン・ソンチャンらを破り、上位戦線で戦ってきた。
一方で、王座へ近づきながら届かなかった試合も少なくない。
2019年には暫定王座を懸けてサドゥロエフ・ソリホンと対戦したが、2ラウンドTKO負け。
2023年には雑賀“ヤン坊”達也との次期挑戦者決定戦に敗れ、2024年には久米鷹介にも判定で敗れた。
何度も王座戦線へ進みながら、そのたびにあと一歩で足を止められてきた。
今回の神谷戦は、粕谷にとって再び巡ってきた大きな機会となる。
バルボーザ戦で味わった不完全燃焼
粕谷は2025年3月、パンクラス初参戦のラファエル・バルボーザと対戦した。
試合では、バルボーザの反則となるグラウンド状態での膝蹴りを受ける場面があった。
粕谷は試合を続行したものの、その後にダースチョークを極められ、2ラウンド4分2秒で敗れている。
公式記録はバルボーザの一本勝ちであり、粕谷の敗戦である。
反則の膝蹴りが、その後の試合展開にどこまで影響したのかは判断できない。
それでも粕谷にとって、納得しにくい要素が残る敗戦となった。
その後、バルボーザは鈴木悠斗を一本で破り、2026年3月には雑賀を下してライト級王者となった。
粕谷が今回の挑戦者決定戦を勝ち抜けば、自らに黒星をつけた相手と、今度はベルトを懸けて再び向かい合う可能性が高まる。
前回の敗戦に雪辱するだけではない。
長く追い続けてきたパンクラス王座を獲得するための再戦になる。
元二階級王者ISAOを一本で下して再起
バルボーザに敗れた粕谷は、2025年12月に元ライト級、フェザー級王者のISAOと対戦した。
両者は2017年にもフェザー級で対戦し、そのときはISAOが判定勝利を収めている。
約8年ぶりの再戦では、粕谷が寝技で主導権を握った。
2ラウンド44秒、リアネイキッドチョークで一本勝ち。
過去の敗戦を取り返すとともに、王座戦線へ復帰した。
長いキャリアの中で積み重ねてきた経験と、自らの強みであるバックからの絞めを、大一番で結果につなげた勝利だった。
この一本勝ちを経て、粕谷は再びライト級1位まで順位を上げた。
柔道を武器に無敗街道を進んだ神谷
神谷は1999年4月19日生まれ、東京都出身。
BRAVE GYMに所属し、戦績は8勝1敗1ノーコンテスト。
身長177センチと、170センチの粕谷を上回る体格を持つ。
神谷の土台にあるのは柔道だ。
相手と組んだ状態から身体を大きく崩す投げ、ケージ際での組み、上になった後のコントロールを得意とする。
2022年に芳賀ビラル海へ判定勝ちすると、天弥戦では相手の反則によって失格勝ち。
さらに余勇利、平信一も下し、デビューから4連勝を記録した。
その後の西尾真輔戦はノーコンテストとなったものの、6勝無敗1ノーコンテストの戦績でROAD TO UFCへ進み、国内ライト級の有望株として評価を高めた。
平戦では3ラウンドにリアネイキッドチョークで一本勝ちを収めており、投げやトップコントロールだけでなく、寝技で試合を終わらせる力も示している。
しかし、順調に進んでいたキャリアは、初めての国際舞台で止められた。
ROAD TO UFCで喫した初黒星
神谷は2025年5月、「ROAD TO UFC」に出場し、韓国のキム・サンウクと対戦した。
UFCとの契約につながるトーナメントだったが、2ラウンドにクルスフィックスで上から固定され、肘を受けてTKO負け。
プロ7戦目で初黒星を喫した。
国内で連勝を重ねてきた神谷にとって、世界へ進むための大きな機会を逃した敗戦だった。
ただし、その一敗で勢いを失ったわけではない。
2025年12月の再起戦では、経験豊富な松岡嵩志と対戦。
2ラウンド、柔道仕込みの強烈な投げによって松岡が腕を負傷し、神谷のTKO勝利となった。
続く2026年3月には葛西和希を判定2対1で撃破。
簡単な試合ではなかったが、競り合いを勝ち切り、連勝でランキング2位まで上がってきた。
初黒星を経験した後に、異なるタイプの相手へ2連勝したことは大きい。
勢いだけで勝ってきた若手ではなく、敗戦から立て直せる選手であることを証明した。
勝負の鍵となる組みの攻防
両者ともに組みと寝技を得意とするが、その使い方は異なる。
神谷は柔道を生かし、正面から組んで相手を崩し、上の位置を奪うことを得意としている。
対する粕谷は、相手がテイクダウンや立ち上がりを狙う動きに合わせて背後へ回り、バックポジションから絞めを狙う。
神谷が粕谷を投げてトップを取ったとしても、それだけで安全とは限らない。
粕谷は下になった状態からもスクランブルを起こし、相手の背中へ回る機会を探す。
神谷が強引に抑え込もうとすれば、スクランブルから背後を取られ、首を狙われる危険がある。
反対に、粕谷が組みに集中しすぎれば、神谷の投げを受ける危険が高まる。
神谷は粕谷より7センチ高く、9歳若い。
体格差と運動量を生かせるかがポイントになる。
ケージ際で粕谷の動きを止め、トップを維持できれば、判定まで含めて試合を支配できる。
粕谷にとっては、神谷の力を正面から受け続けないことが重要になる。
打撃で前進を誘い、タックルやクリンチの攻防から神谷の背後へ回る。
自ら先に組むだけでなく、神谷の投げを仕掛ける動きを利用できるかがポイントとなる。
長期戦はどちらに味方するのか
試合はタイトルマッチではなく、5分3ラウンドで行われる。
そのため、序盤から主導権を握ることが重要になる。
神谷が若さとフィジカルを生かして前へ出れば、粕谷は早い段階からケージを背負わされる可能性がある。
テイクダウンとトップキープでラウンドを重ねれば、神谷が判定で勝つ展開も考えられる。
一方、試合が複雑なスクランブルの連続になれば、経験で勝る粕谷の強みが表れやすい。
粕谷はこれまで、国内外でさまざまなタイプの選手と戦ってきた。
劣勢の中でも相手の隙を探し、バックを奪って一気に仕留める技術を持っている。
神谷にとっては、投げた後に焦らず、粕谷へ背中を見せないことが重要だ。
粕谷にとっては、神谷の序盤の圧力をまともに受けず、15分の中で生まれるスクランブルの機会を逃さないことが求められる。
粕谷が勝てばバルボーザへの再挑戦権を獲得
粕谷が勝利した場合、王者バルボーザとの再戦には明確な物語が生まれる。
初戦は反則の膝蹴りが絡んだ末の一本負けだった。
粕谷が神谷を破って正式な次期挑戦者となれば、前回とは異なる条件で決着をつける機会を得ることになる。
ただし、バルボーザはDWCSやRIZINへの出場を希望しており、王座戦がいつ行われるかは確定していない。
ただし、王者となった現在のバルボーザは、初参戦時よりも日本での経験を積んでいる。
長いリーチを使った打撃、空手を基礎とした距離管理、ダースチョークやスピニングチョークを極める寝技を備え、立っても寝てもフィニッシュできる。
粕谷が再戦で勝つためには、前回以上に慎重に距離を詰め、バルボーザの首を狙う攻撃を防ぎながら、自らが得意とするバックへ到達しなければならない。
神谷戦は、その再挑戦に値することを証明する試合でもある。
神谷が勝てば新世代の王座挑戦者が誕生
神谷が粕谷を破れば、パンクラスのライト級に新しい流れが生まれる。
UFCを経験し、長年トップ戦線で戦ってきた粕谷を倒すことは、神谷が国内の有望株から正式な王座挑戦者へ変わったことを示す。
バルボーザとの対戦は初めてとなる。
神谷の柔道とフィジカルが、バルボーザの長い打撃と高いグラップリング能力にどこまで通用するのか。
組みの強さで王者の距離を潰せるなら、バルボーザにとっても簡単な相手ではない。
一方で、バルボーザは首を狙う攻撃を得意としている。
神谷が粕谷戦でタックルや投げの後に背中や首を守れるかどうかは、将来の王座戦を占う意味でも重要になる。
粕谷を攻略する過程そのものが、バルボーザへ挑むための試験となる。
ベテランの再挑戦か、若手の世代交代か
粕谷は、これまで何度も王座へ近づきながら、その手前で敗れてきた。
神谷は、ROAD TO UFCで初黒星を経験しながら、国内で2連勝を挙げ、パンクラス王座へ挑める位置まで戻ってきた。
粕谷にとっては、長いキャリアの集大成として王座へ進むための一戦。
神谷にとっては、国内トップクラスのベテランを越え、自らの時代を始めるための一戦である。
経験の粕谷か、勢いの神谷か。
勝者の先で待つのは、脳動脈瘤を乗り越えてパンクラス王者となったラファエル・バルボーザだ。
6月28日、ライト級の次期挑戦者が決まる。
同時に、パンクラスのライト級がベテランの再挑戦へ進むのか、新世代による王座奪取へ動き出すのかも、この試合で大きく変わることになる。
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※ランキング、戦績、対戦カードは2026年6月12日時点。
